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2013.04.19 (Fri)

セビリアの酒場から ~ことのはじまり 後編~

「・・・というわけだ。ロサリオ。」

話しを終えた後、セビリアの酒場にしかおいていない、しかもバーボンハウス商会員のみたしなむことのできる、特別なウィスキーが注がれたグラスを空にした。


「ふーん・・・。で、その人はどんな人なの?」


「内緒だ。」

「えー!!もういいじゃないそこまで喋ったんだし!」

「さっきの話で大体わかるだろうが。まったく女はこれだから・・・。」

「その女に今から会いに行こうって人が何を言ってるのよ。」

「お前みたいな噂好きで詮索好きな女じゃないんだよ!」

さっきまで静かだった酒場も一気にけたたましい怒声がひびきわたるようになり、酒場のマスターも呆れ顔で仕込みをしていた。

そんななか、また一人航海者が来店した。彼もまた、国籍こそ違えどこの酒場では顔なじみであった。


「なんだ。今日も酔っているのかな?しかも今夜はからみ酒か?まったくせわしないものだな。」


それまでロサリオに悪態をついていた男は振り返ると、なんだお前か、といったふうな表情を浮かべながらふんと鼻を鳴らすと、新しく注がれた琥珀色を口へ運んだ。



【More・・・】

「余計な御世話だよ組合長。ここにきたってことは、あらかた用事は済んだということかな?」

「そうだ。それともう一つ、君の船の到着先はここではない。アレクサンドリアだ。」

軍人風の男が座っているとなりにいるが、着席もせず突っ立ったまま用件を伝えた。

「アレクサンドリアまでは私の船に乗っていくといい。」

さすがにこの報告に驚いたのか、男は傾けていたグラスを口元でぴたりと止めて、コースターの上に戻し、傍らで立ったままでいる組合長のほうへ体を向けた。

「・・・・なにがあった。」

「別になにもないさ。通訳娘が一役買いたいらしい。あのおせっかいめ、女っ気のない君にそんな浮いた話があるときいて、小躍りしながら私に手を貸してくれと願い出てきたよ。私の組合の連中にあれこれ指示出して、手紙を渡してカサブランカに向かうように言ってたな。それだけじゃあ何が何だか分からないが、グレゴリーナへもなにか手配していた様子だから、なにか物でも渡すつもりじゃないのかな。」

「そうか、そういうことか。まったく、いらぬ世話をしてくれる。」

うつむいて後頭部をぐしゃぐしゃと掻きながらぼそりとつぶやく軍人風の男をよそに、いまだ立ったままでいる組合長は話を続けた。


「ミッターマイヤー、出港の準備はできている。すぐにアレクサンドリアへ向かおう。」

「おいおい、ロンドンからこっち来るのにも2週間程度はかかるだろうよ。」

「普通のフリゲート艦なら、だ。乗組員は君ではないが、船は君の船だ。君の二つ名は乗員の操船技術だけの賜物ではあるまい。そうだろう?」


「・・・そうだったな。」

ミッターマイヤーが立ち上がろうとした時、赤胴色の髭をたくわえた組合長は片手をつきだしてそれを制し、彼を見据えた。

「もうひとつ、君の想い人の居場所がおおかた見当がついた。急いでいる理由はこちらが本命だ。」


そういうと、風体に似合わぬ茶目っ気のある表情を浮かべ、ミッターマイヤーに目配せをした。

ミッターマイヤーはなんとなく背筋が冷たくなるのを感じつつ、黙ってうなずくと、今度こそ席を立って、酒場を出て行こうとした。

「組合長。急いでくれよ。」

「必要以上に急いだとて、船が届かない事には動けんだろうが。まあ任せておけ。」

「ちょっと、ちょっとまってよ!・・・結局、これから会おうとしている女性ってどんな人なのよ!」


酒場を出て行こうとする二人の後ろから悲鳴のような声がした。二人は顔を見合わせて、肩をすくめると、

ミッターマイヤーはロサリオのほうを振り向いた。

「お前みたいなじゃじゃ馬だよ。」


そういうと踵をかえして酒場を出て行った。

「ロサリオ、うまくいった暁にはその婦人もここに連れてくるから、そうカリカリしないで待っててくれ。もし彼が話さなくとも、私がこっそりおしえるから。」

そういって、組合長も店を出て行った。






出港所へ向かう道中、セビリアの顔なじみに挨拶をしつつ、やや速足で二人は進んでいく。歩きながら、目も合わせずに組合長は現状を語り始めた。
ミッターマイヤーの想い人の現在地が大方絞れてきたというのは間違いない。

その証拠に彼女がつき従っているベネツィアの僭称帝と同形状のガレー船が東地中海に出没しているという。
しかもその旗印はオスマン帝国に酷似した三日月にジョリー・ロジャーをあしらったものであったという。

「その船の持ち主が彼女だと断定はできないが、すくなくともあの気違いではないな。」

「うむ。マリーが今日知らせてくれた。マリーは快速船にのってきたから、情報としては新しい部類だ。いまからアレクサンドリアに行けばその周辺で発見できる可能性は高い。もっとも、その道中でばったりということも考えられる。」


「そうなれば、通訳娘の思惑はともかく、俺にとっては重畳極まりないな。」

「おいおい勘弁してくれ、俺の船は戦艦じゃないぞ。」

「相手は海賊だ。砲撃で船沈めようなんてみじんも考えていないはず。収奪目的で接弦してくるだろうよ。そうしたら、逆にあちらの船に乗り込めばいい。不安なら、カバーリョでも護衛につれていくか?」

組合長並びに彼の側近の実力は折り紙つきであるのを承知で、ミッターマイヤーはからかうように笑みを浮かべながら護衛の提案をした。
組合長もわかっていると言いたそうな風で笑みを浮かべて手で拒絶のジェスチャーをした。
やはりそれなりに自信をもっているようだ。

「まあ、私はさしずめ、動かざること山の如しってやつだ。なんなら君に、斬り込む際のお供をつけてやる。速き事風の如しといわれる君について行ける人材がいるのかが問題だが。」

「ソンシのヒョウホウってやつだな。まったく勤勉ぶりには頭が下がる。さて、ようやく船に乗れそうだな。ここからはよろしく頼む。なんなら、俺が操船の指揮をとってもいいぞ。」

疾風提督の突然の提案に、組合長はぎょっとしてかぶりを振った。

「勘弁してくれ。君に指揮されたら、うちのクルーは二日と持たないぞ。それこそアレクサンドリアに着く前に幽霊船になっちまう。」

船速の速さは船の性能はもちろん、乗員の熟練度にある。とくに彼の乗員は高速運用技術に特化していた。
そんな彼らと同じような動きを求められてはたまったものではない。

「そうかね。俺はそこまで部下を酷使しているつもりはないんだがなぁ・・・。」


そりゃそうだ、訓練されているんだもの。と組合長は頭の中で呟きつつ、港に停泊している自分の船に合図をし、梯子をおろさせた。

組合長は梯子の横に立ち、ミッターマイヤーを見据えて恭しくお辞儀をした。

「ようこそ、我が船へ。」

「旅路の果てに、待っているは海の女神か死神か。」



「さてね。ただ、美人であることには変わりはないだろう?一見の価値はあるということだ。」

「美人の定義ってやつは、人それぞれ違うものだ。がっかりするかもしれんぞ。」

「なあに、君の好みはそんなに悪趣味ではないさ。期待しているよ。」

しばし言葉遊びに興じた後、二人は船に乗り込んだ。




※ neyaさんのSS「セビリアの酒場から 別腹」 のちょっとまえのお話しになります。
※ ちゃんとしたなれそめは別で書いておりますのでしばしお待ちを。


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12:49  |  短編書き下ろし  |  トラックバック(0)  |  コメント(0)

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