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2013.01.09 (Wed)

【続編募集】セビリアの酒場から

 いつも陽気で、豪放な男がここ最近は黙りこくってカウンターに腰かけ、時折ため息をつきながら酒をあおっている。

どこからどう見てもおかしい。いつもと違う。

褐色の肌に明るい蜂蜜色の髪。頬には十字の傷がある。

酒を飲むときは仲間とテーブルを囲んであれやこれやと話し、げらげらと笑い呆けているのが常であるのに、どういうわけか今日は背中を丸めて、なにかに怯え、ひっそりと、まるで見つからないように隠れているかのような風情である。

ここセビリアは彼の本拠地である。当然のことながら顔見知りにもよく挨拶をされるのだが、顔を傾けて顔を見るなり手をあげて簡単に挨拶を交わすのみである。

赤胴色の髪を同じ色の髭を蓄えたバーボンハウスの商会長が訪れた時、気づいたか否か、十字傷の男は彼のほうを全く見なかった。

【More・・・】

「ロサリオ、あそこの辛気臭い御仁は何なんだ。」

がっしりとした体格の、赤毛の男はセビリア酒場の看板娘、ロサリオに聞いた。

「あら、何なんだといわれましても、あなたの先代の商会長さんじゃありませんか。」

「それはわかっている。だが、彼が漂わせている、くらぁいどんよりとした空気はいったい何なんだ。何があった。」


そう聞くのも無理はない。赤毛の男と十字傷の男はバーボンハウス商会に属し、商会員として、船乗りとして苦楽をともしてきた中である。多くの出会いと別れをともに味わい、商館で酒を交わした仲なのだ。


そんな間柄であるにもかかわらず、今、目の前で形容しがたい雰囲気を漂わせて、指でグラスの中にある氷をくるくるとまわしつつ、一息に酒をあるかと思えば、それを思いとどまり、はぁと重い、重いため息をついてうなだれる所作は、これまで一度たりとも見たことはなく、酒場娘のロサリオもやはり同じようにどうしていいのかわからず、肩をすくめるばかりであった。

「今日はお店に来てからというもの、ずうっとあの調子です。声をかけてもあいまいな返事しかしないし、どうしていいかわからなくて。」

「・・・やれやれ、何があったか知らないが、あんなのが酒場にいたら商売あがったりだろう。ロサリオ、私にも一杯おくれ。」

 
ロサリオから琥珀色の液体が入ったグラスをうけとると、おもむろに彼の盟友のところへ歩みを進めた。


そのまま隣の席に腰をかけたが、どんよりした男は特に興味を示さず、ただぼんやりとしながらグラスを傾けるだけであった。

「なにやら物入りのようだが・・・お役に立てることはあるかね。」

とりあえず、といった体で赤毛の男は声を掛けてみた。近くにいるほどなんともいえないような空気が漂っている。

「・・・どうしてそうだと思うんだ。」

声の主はちらりと赤毛のほうを横目でみたきり、すぐに正面に目を向けた。発せられた声もいつものような快活さを欠き、しゃがれているような声であった。
赤毛の男は肩をすくめた。

「そんなの誰が見たってわかるさ。そうなっている理由はわからんが、いつもならあんたの隣に座ろうとするようなやつも、陽気に声を掛けようとするやつも、今日はいなかったろう?ほれ、ロサリオやマスターですらあんな顔してるぞ。」

十字傷の男はそういわれて、ふとカウンターの隅で酒を作っているマスターに目を向けた。
それに気がついたマスターが肩をすくめながら視線を落とした。

「“イスパニアの疾風”ともあろうお方が、何をそう悩んでおられるのかな?」

赤毛の男は再度尋ねた。

問われた男はため息をつき、グラスに注がれている琥珀色を一息に飲んだ。

のどがやけるように熱くなるのをこらえながら、十字傷の男は搾り出すように答えた。

「悩みというほどじゃないが、俺にとってはとてつもなく胸糞悪い話だ。」


「そうか。ただ、胸糞悪いってだけの相手でもなさそうだな。普段ならこんなところにこもってないで、すぐに現場へ直行するだろうに。」

疾風と呼ばれた男はうつむいたまま黙りこくって酒を飲んでいる。一体何があったのか。

「で、何が起こった。私にも言えない様な事か。」

十字傷の男は答えない。

というより、言いたくないような様子であった。目が右に左にせわしなく泳いでいる。

怒鳴られるかもしれないが、ちょっとふっかけてみるか。赤毛の男はそう思った。

そしてウィスキーで喉を湿らせながら、赤毛の男はもう一度聞いた。


「お前さん、恋してるだろ。」



「なに?」



「恋だよ、恋。恋愛でもしてるんだろって聞いているんだ。」


「冗談をいうなよ。」

「冗談など言っていない。ほれ、顔が赤くなっているのは酒のせいじゃないだろう。」

日に焼けた褐色の肌をしている男だが、それでもわかるくらい赤くなっている。顔だけでなく、耳も。十字傷の男はばつが悪そうにうつむきながら一息にウィスキーを流し込んだ。

彼の悩みを看破した赤毛の男はとなりでほくそえんでいる。

「まったく、嘘をつけないのは相変わらずだな。で、貴公の心を鷲摑みにしたのはどこの貴婦人かな。」

ニヤニヤしながら、聞いてみた。

「胸糞悪い話だって言っただろう。お相手は貴婦人なんて柄じゃないんだよ。」

「ふむ。では一体どのような。」

「・・・海賊だ。」

「なんと。」

「初めて会ったのは陸上だ。マルセイユだった。皇帝を僭称している男がいただろう。どうやらそいつらと徒党と組んでいたらしい。その女が陸上で数人の賞金稼ぎに追われているところに出くわして、何も知らずに助けてやったのが最初だ。」

「ほう。それにしてもそんなきな臭いところによく首を突っ込めたな。相手も素人じゃあないんだしな。」

「女一人を男数人で追っかけまわしているのが気に入らなかっただけだ。その後は海の上じゃあったことはないんだが、航海の合間に街中で出くわすことがあってな。酒場に誘ってよくよく話をしていると、イスラムに亡命したことと、助けたときの状況は、彼女が海賊で、賞金稼ぎに首を狙われているところだということを話してくれたのさ。」

十字傷の男は空になったグラスにウィスキーを注ぎながら悩みの種を明かした。

注いだばかりの酒を半分ほど流し込んで、再度口を開いた。

「・・・で、これからそいつのところに行こうとして、いろいろ準備をしているのさ。」


「話はわかったが、それのどこが胸糞悪いのかな?あそこまでどんよりとしているのは恋をしている悩みだけではないだろう。」

「あの女はな、俺にこういいやがった。『あたしを抱く権利があるのは、海上で私に勝てるくらい強い男だけなのさ』と。俺なんざ大した事ないとでも言わんばかりだったぜ。陸上ではなく、航海者なら船の腕で納得させて見なさいよとな」

「お前さん相手にそこまで言うとは、相当なじゃじゃ馬さんだな。確かに、貴婦人なんて柄じゃない。」

「ふふ、だから言ったんだよ。イスパニアの疾風の二つ名は伊達じゃないところを見せてやるぜ。」


十字傷の男の顔が、憑き物が取れたかのように急に明るくなった。これまでのどんよりした雰囲気もどこへやら、すっかりなくなっていた。遠くから見ていたロサリオも驚いた様子で二人を見ている。



「なんだ。ただ単にこのことをしゃべりたくてうずうずしてただけじゃないのかね。」

くらいくらい霧を取り払った赤毛の男は肩をすくめてつぶやいた。

「まあそういうな。一人で考えているとどうしても悶々としてきて、腹が立って仕方なかったんだ。」

「・・・ところで、だ。俺のドッグに赤いロイヤルフリゲートが係留されたままになっているのだが。・・・そろそろお返しする時が来たのかね。」

先ほどまでの空気とはうって変わって、ついにはいつものようにケラケラと笑い声まで立てるほどに立ち直った男を横目に、赤毛の男は、やはり髪の毛と同じ赤い色のひげをなでつけながら、以前に譲り受けた彼の代名詞である船の事を聞いた。


「・・・お返し願おうか。あれに乗れるのであれば本望だ。実はあの船以外に戦艦がなくてな。どうしたものかと思案に暮れていたんだ。」


「ようし。そうとなれば、先代商会長の恋の行方を占う航海だ。私の組合で諸々の準備をさせよう。どこら辺まで行くつもりだ。」



「アレクサンドリア付近だ。冒険家筋の情報だと、外洋には出ていないとの事だ。地中海で仕掛けることになるだろう。」

「ならばそこまで遠出ではないな。わかった。準備ができたら声を掛ける。それと例のものを持っていってくれ。」

「例の物?」

疾風の男が顔をしかめる。

「商館においてあるバーボンだよ。ラーベナルトが大事に保管しているコレクションのひとつだ。俺がお守り代わりにと預けているやつさ。」

「ああ、それのことか。よろしく頼むよ。時がきたら、それでもって祝杯をあげたい。」

しかめっ面が瞬時にほころんだ。これまでに何度かその酒を飲んだことがあるが、あれは格別で、特別な瞬間にふさわしい一品である。

「祝杯をあげられるよう祈っているよ。こちらも抜かりなく準備をしよう。」


二人でグラスをあわせ、琥珀色の酒を飲み干すと、二人同時に席を立った。

すっかり生気を取り戻した十字傷の男は、これまでの成り行きを遠くから眺めていたロサリオに向かって声をかけた。

「心配掛けてすまなかったな。次くるときはもう一人連れてくるよ。とびきりのじゃじゃ馬をな。」







                                 ~つづく?

                               ※後日談誰か書いてください・x・








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23:29  |  短編書き下ろし  |  トラックバック(1)  |  コメント(0)

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2013/01/20(日) 13:21:15 | 登檣礼

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