2017年06月 / 05月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫07月

--.--.-- (--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告

2012.05.16 (Wed)

帰れる場所があるから

セビリア三番商館には夜遅い時間にもかかわらず、いまだ、煌々と明かりがともされている。

戦争だ何だと何かと騒がしかった昼間とは一変して、外は暗闇と静寂に包まれて、物音ひとつしない。

商館でも、少し物音をたてようものなら、響き渡ってしまうくらい、今夜に至っては静かである。

いや、本来ならそういうものなのであろうが、この三番商館の明かりがついているうちは、昼も夜も関係がないくらいの喧騒に包まれているのが常であった。

酒を飲むもの、本を片手に談笑するもの、腕試しをするもの、議論するもの・・・。

今夜は商会秘書が記録をする日誌や、なにやらの書類にサインをする際の、ペンを走らせる音が聞こえるばかりである。


「ラーベナルト。世話になったな。これでとりあえずはお別れだ。」

「会長・・・寂しくなりますね。」


「君がこの書類を受領すれば『元』商会長だ。」


サインを済ませた二通の書類を差し出して、頬に傷のある男は笑みを浮かべた。



「いろいろと・・・まあなんだ。その、元気でな。」


この期におよんでうまく言葉がでてこない自分を情けなく感じつつ、絞り出した別れの言葉は実に平凡で、ありきたりなものであった。

秘書と男は握手を交わすと、手元にあったウィスキーの入ったグラスを一息に飲み干し、商館を出て行った。










【More・・・】

・・・・・・

あれからどれだけの時間を経たのか。ラーベナルトは相変わらずセビリアの3番商館で商会秘書を務めている。

商館の所有権を巡る競争に日々追われながらも、なんとかここの所有者は変わらずにいる。

商館を訪れる人は減ってはいるが、商館の雰囲気は変わらずだ。


ラーベナルトはいつものとおり、商会秘書の事務仕事をしていた。

基本的に、商館を訪れる人は少ない。商会員は航海に出ていることが多いため、館内には一人で黙々と作業をしている事が多い。

今日もそんな何事もない一日が過ぎて終わる。

はずであった。











昼下がり。簡単な昼食を済ませ、一息ついているとき、静かに商館の扉が開いた。


「おや、商会長」


現れたのはひげを蓄え、見事なまでに赤く染まった髪を無造作に撫で付けている男。

手にはウィスキーの瓶をひとつ抱えている。

「お久しぶりです。開拓地のほうは順調ですか。」

男はラーベナルトの問いかけには答えずに、カウンターまで歩み寄った。

持っていたウィスキーの瓶を置き、どかりをいすに腰をかけ、ふぅと息をついた。

無言のまますこしの時間が過ぎ、男は自らが持ってきたウィスキーではなく、あけてあった別のウィスキーの瓶に手を伸ばし、グラスに注いだ。


「ラーベナルト。俺は商会長の職を辞する。」

赤毛の男はウィスキーを口にする前にボソリと言った。


「・・・そうですか。後任はお決まりですか。」


ラーベナルトは少々驚きはしたものの、顔には出さず事務的に問い返した。そうしながらも、手続きのための書類の準備を進めていた。

「ある程度はあるけれど、ほかの商会員にも承諾を取らなければならないから、もろもろの準備を頼みたい。」

「かしこまりました。」


この人もまたここを去ってしまうのだろうか。ラーベナルトはふと思った。今目の前にいる赤毛の男も、ラーベナルトとの付き合いはとても長い。商会員と秘書という間柄ではあるが、それ以上の付き合いもしてきた。出会いと別れがあるのは当たり前のことであるし、彼も数多く経験してきた。このようなことには慣れてもいいはずであるが、こればかりは彼にとっては苦痛以外の何者でもなかった。



「商会長は辞めるが、まだこの商会には世話になる。そんな顔をするな。」



わずかにこわばったラーベナルトの表情を見て、赤毛の男はそう言った。ラーベナルトははっとして彼の目を見た。
男はふんと鼻で笑い、ウィスキーを口に運んだ。

「それよりも、今日はいい知らせだ。」

「えっ」

「前商会長が戻ってくるぞ。」

「・・・それは・・・・」

「定期的に近況のやり取りをしていてね。彼は少し前までボヘミアにいて、国政にかかわっていたようだよ。先日の定期便でそろそろこちらに顔を出すと書いてあった。細かいことは記載してなかったが、どうやらお役御免となったらしい。」


「・・・そうですか。いつごろこちらに見えるのでしょうか。」

「さてね。そこまでは触れていなかったからまったくわからないんだがね。」

「楽しみですね。」

「まあね。戻ってきたら、このウィスキーで一杯やろうと思ってね。ちょっとした年代ものなんだよ。」

「そうですか・・・本当に楽しみだ。」


一度海を離れた航海者が戻ってくることはそこまで珍しいものではない。
それでも、かつての仲間が戻ってくるのは単純にうれしい。


どうやって出迎えようか。これまでもこの商会に戻ってきた幾多の航海士たちと同じように、何食わぬ顔をしてでむかえてやるべきなのか、それとも、サプライズを用意するべきなのか。


「この知らせは後にしておいたほうがよかったかな。」


「えっ」


「さっきから書類すら出てこないのだが。」

「現」商会長は怪訝そうな顔をしながら、カウンターをトントンと指でたたいた。


「・・・まあ、わからんでもないがね。カウンターにアフロでも並べておけば喜ぶんじゃないか?」


「そんなものでよろしいのでしょうか。酒場の親父に言って、ロサリオを借りてきたらどうかと思いますが・・・」



「いつ帰ってくるかわからんのにそんなことできないだろう。まあ、いいさ。私の方で何か考えてみるさ。あの通訳娘も近いうちに顔を出せといっておくか。何しろ、かつては『疾風』と呼ばれていた男だ。そうおそくはなるまいて」


「そうですね。では、商会長。引継ぎは保留としておきましょう。あの人を出迎える仕事が残っていますから。」


ラーベナルトはそういうと、自分のグラスを用意して、赤髪の男と自分にそれぞれウィスキーを注いだ


「・・・抜け目のないやつだ。ま、引き際としては悪くはないね。」



あなたに一杯。私に一杯。




セビリア三番商館に、再び懐かしい匂いをまとった風が吹き込みはじめた。








スポンサーサイト
22:35  |  短編書き下ろし  |  トラックバック(0)  |  コメント(4)

Comment

おかえりっ

ナンカキタ(・×・)
MidKnight |  2012.05.20(日) 09:26 | URL |  【編集】

疾風の御仁が帰ってくる(・▽・)
しかし商館でグラスを傾けてる雰囲気ってのは、
なかなかどうしてバーボンハウスにピッタリですねぇ。
アナゴ |  2012.05.21(月) 23:19 | URL |  【編集】

呼び出しキタワー

( ´・∀・`)
Neya |  2012.05.22(火) 03:41 | URL |  【編集】

戻ってくるんですね^^ おかえりなさい^^
ルィ |  2012.05.26(土) 09:09 | URL |  【編集】

コメントを投稿する

Url
Comment
Pass  編集・削除するのに必要
Secret  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://st96in.blog82.fc2.com/tb.php/460-11b0ad1d

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。