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2012.07.10 (Tue)

紅の傭兵(上)

ポルトベロ城塞戦から数年さかのぼった頃の話・・・


ミッターマイヤーはアムステルダムに来ていた。

かつて所属していた古巣を訪ねたわけではない。

盟友であるE・メックリンガーより、冒険中の護衛を依頼されたのである。

冒険家といえば聞こえはいいが、メックリンガーはまだ駆け出しである。

それにどちらかと言うと交易で身をたて、潤沢な資金を背景に遺跡発掘や美術品収集に従事している。

ミッターマイヤーとはルアンダへ宝石を買い付けに行っている頃からの仲である。


それにミッターマイヤーは、彼がまだ海に出たばかりのころに、何かと世話になった人物の故郷でもあるため、セビリアと同等の愛着をもっているようであった。

彼はメックリンガーの護衛の他に、都合があえば、その旧友にも挨拶をしておこうと思っていたのだった。


二人は港前で合流を果たすと、立ち話もそこそこに酒場へ向かい、マスターにコース料理をオーダーした。

そして、今回メックリンガーが受けた依頼の事や、今後の方針などについて話し合った。










【More・・・】

「で、提督。古くからのご友人とはどのような御仁ですかな?」


空になったグラスに、ジンにライムジュースを注ぎながらメックリンガーは聞いてみた。

ストレートの長髪に口ひげを蓄えた紳士風の航海者であるが、およそ冒険家というよりは芸術家の風体である。とはいえ、外見とはうらはらに美術品などに関する造詣は、いまのところそこまで深いものではない。バイオリンも下手の横好きといった程度である。


片や提督と呼ばれた男、ミッターマイヤーは浅黒い肌にクセのある金髪、頬に十字傷があり、目つきは鋭い。軍人とはいえど、その枠にとらわれることなく活動をしており、現在はセビリアの老舗商会を束ねる身である。


両者ともに活力にあふれ、大海原に大志を抱く年頃である。


そのミッターマイヤーが、手元のビールを口に流し込み、グラスをあけると、軽く一息ついて、言葉すくなに答えた。


「ああ。この傷を付けた男さ。」


頬の傷を指でトントンと触れた。さすがにもう痛みは感じないようではあるが、斬られた後がくっきりと見える。


「彼は俺が新米だった頃に色々と世話を焼いてくれたんだ。といっても、どちらかと言うと弟のほうに世話になったんだが。今日会う本人は兄貴のほうさ。」


いいながら、今度は別のグラスにウィスキーを注いだ。


グラスをくるくると回しながら続けた。


「まあ何の気もなしに酔って決闘騒ぎになっちまってねえ。引くに引けなくなっちまったもんで、戦ってみたら、顔にバッテンつけられちまった。まあ、殺されなかっただけ、マシだったってわけだ。」



ウィスキーを一口のみ、グラスを置くと、ミッターマイヤーは肩をすくめるそぶりを見せた。

「今でも、ヤツにはかなわないけどねぇ。」

「上には上がいる、ということですかな。」

メックリンガーはにこりとして相槌をうった。







「いや、それはちょっと違うな。」



急にまじめな顔つきになってミッターマイヤーは答えた。




「上だなんてとんでもない。俺なんざヒヨっ子もいいところだよ。世の中は広いんだ。この海と一緒でな。」















メックリンガーは首をかしげた。



「それもそうだが・・・。疾風ウォルフとあろうおかたが、ご謙遜がすぎるのではないかな。」



嫌味ではなく、本心から問いかけた。事実彼は、「疾風」の異名を持つ男の操船を間近でみているからこその問いである。
































「いずれにせよ、俺が負けているのは事実なんだ。それに、俺と違って彼奴の名前はこのネーデルランドだけでなく、ヨーロッパ中、いやいや、それこそ世界中に知れ渡っているんだ。『紅の傭兵』って二つ名でな。お前さんも航海者の端くれなら聞いたことくらいあるだろうよ。」









「紅の傭兵・・・・」
















グラスをまわしながら、メックリンガーは記憶の断片をたどりはじめた。


その様子を眺めていたミッターマイヤーは口元に笑みを浮かべ、氷が解けて、程よく薄まったウィスキーをぐいと飲み干して、グラスをテーブルに置いた。

過去を巡る旅路から帰還していないメックリンガーを無理やり引き戻すかのように、ミッターマイヤーは彼に顔をちかづけて、


「どうだ?思い出したかな?」

といいながら、酒臭い息を吐き出した。


「・・・話だけなら聞いたことがある。海賊を7隻同時に相手してすべて沈めたとか。」


メックリンガーは臭気に顔をしかめながら答えた。


「そうだ。一言加えるならば、砲撃によってではなく白兵戦でそれをやってのけたんだ。」

「なんと・・・。」

「7対1でドンパチやっていたら不利なのは目に見えてる。遠巻きに沈められてしまうのがオチだ。そこで、敵船に接舷して載りこんでしまえば、万が一自分の船を沈められても、拿捕した船で戦える。そう踏んだのさ。正気の沙汰じゃあないが、それをやらざるを得ない状況だったということかな。」

説明を終えて満足げな顔をしながら、空のグラスに琥珀色を注いだ。

「その7隻相手にした時に、斬って斬って斬りまくったんで、そいつのなにもかもが返り血で朱に染まった。だから、「紅の傭兵」と呼ばれるようになったのさ。」


「なるほど。」



「お前さんをポルトベロまで護衛するのはそういう男だよ、メックリンガー。ヴェネツィアの僭称帝がでてこようが、異教徒どもが出てこようが問題ない。大船に乗った気分でいればいいさ。少なくとも、俺が護衛するよりずっと安全だ。」



二杯目のグラスを空けた時、酒場へと入ってくる者があった。一人。彼の周囲からは硝煙の臭いがたちのぼる。すらりとした、やや細身にも思える体格ではあるが、コートの下には鍛え抜かれた筋肉の鎧をまとっているに違いない。鋭いレイピアのような、そんな雰囲気があった。


ミッターマイヤーはふとその男に目を向けた。

とたん口元が緩み、目には懐かしさと嬉しさに輝いていた。

顔をほころばせながら大きな声で呼びかけた。

「よお、マルナード。今度のお客さんはこちらのヒゲっ面だ。よろしく頼む。」




~続く~


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